桜が咲く頃に、私は
「それは……彼女ですから」


恥ずかしそうにそう言って、また顔を真っ赤にして手で覆い隠す。


「うん。そうだな。だから広瀬は『言える』んだよ。でも、行動に移せないからいつまで経っても何も変わらなくてさ。この先ずっと、今のままでいるつもり?」


パンを食べ終わって立ち上がると、屋上の柵に歩み寄った。


いじめだけの話じゃない。


私との関係だって、付き合ってくれと言われて付き合ったものの、こうして昼ご飯を一緒に食べるだけの超絶プラトニックな関係で、一向に進展していない。


「こ、高校を卒業したら、知り合いのいない大学に行くつもりだから。だからそれまで耐えれば……」


「あんた、もし明日死んだらどうするんだよ」


「え?」


広瀬は、困惑した様子で顔を上げて私を見た。


この表情の本当の意味を私は何も知らなかったけど、私は私で余命が少ないこともあって、そこまで気付いてあげられなかったんだと思う。


「明日死んだら、いじめられた恨みも晴らせないし、私とももう会えなくなるんだよ? それでいいわけ?」


「……それは嫌だな。桜井さんと会えなくなるのは……嫌だ。こうして毎日、一緒に弁当を食べるだけで幸せだから。ずっと続いてほしいと思う」
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