セカンドマリッジリング ―After story—


 どうしたらこんなにもスラスラと嘘の話を作ることが出来るのか、呆気に取られてしまった花那(かな)は呆然とその様子を見ていることしか出来ない。自分が真由莉(まゆり)に話したこととは反対の事ばかりを涙を浮かべて颯真(そうま)に訴える、今まで彼女はこうやって気に入らない人間を颯真から引き離してきたのだろうか?
 それが正しいことだと、すこしの罪悪感も感じないままで……

「やっぱり兄さんに必要なお嫁さんは彼女じゃないわ! この人は……深澤(ふかさわ)の家には相応しくない!!」

 トドメ、とばかりに語気を強めて真由莉はそう言い切った。今の颯真の表情はその背に隠された花那からは見えず、少しだけ不安な気持ちになる。彼女は彼の妻ではあるが、真由莉は颯真の実の妹なのだ。反論も出来ず黙っている花那と真由莉のどちらを信じるかなんて、正直なところ分からない。
 しかし……

「俺に必要なのは深澤家に相応しい女性じゃない、俺だけを心から想ってくれる花那だけだ。真由莉の物差しで彼女を計らないでくれないか、彼女の良さは今のお前には分からないだろうから」
「な、何を言ってるの? 颯真兄さんは次期社長なのよ、それなのに……!」

 颯真がハッキリと言葉にしたのは花那をどれだけ必要としているか、自分達がどれだけ相手を理解し合えているかと言うことだった。最初から真由莉の言葉が嘘だということは分かっていたようで、その話には全くというほど触れはしなかった。
 もししつこく嘘だと突き詰めようとすれば、真由莉の攻撃はなおさら花那に向くと考えたのだろう。そんな颯真の気遣いも不安だった花那を安心させ、苦しかったその胸をじんわりと熱くさせた。


< 70 / 111 >

この作品をシェア

pagetop