ショウワな僕とレイワな私
八丁堀から電車を乗り継いで着いた先は閑静な住宅街で、大きな家がいくつも並んでいる。咲桜は厳かな雰囲気に若干飲まれつつも足取りを進めていった。この辺りだろうというところで表札を見ていくと、三軒ほど進んだところで「成田」と書かれた表札の掛かる家を見つけた。がっしりと閉められたアイアン調の門を前にしてインターホンを押す。ピンポーンという呼び出し音の後に落ち着いた女性の声がした。

「あの、大戸咲桜という者ですが……、成田清貴(きよたか)様のお宅でしょうか」

インターホンの向こうの女性の声が跳ね上がった。

「あ、あの大戸さんですか!今出ますからお待ちくださいね」

間もなく門から出てきたのは、美しい銀髪の女性であった。

「こ、こんにちは」

咲桜は緊張気味で心臓がキューッとなる感覚がしたが、女性には鷹揚な雰囲気がある。

「わざわざお越しいただいてありがとうございます。さ、中へどうぞ」

鉄の門を抜けた先にはよく手入れのされた庭が広がり、白いドアを通って入った廊下の先にある居間には、声が少し響くほど高い天井が広がっていた。

「ちょっと主人を呼んできますので、こちらでお待ちください」

女性は清貴の妻である。咲桜はなるほど、と思ったものの明らかに貴重そうな調度品や家具ばかりの広い居間にいるのは落ち着かず、背筋をピンとして青いソファーにちょこんと座っていた。2人の足音が聴こえた咲桜は、スタッとその場を立った。

「あ、これはどうも。あなたが、咲桜さんですね」

優しそうなおじいちゃん。そういった印象を持たせる人が入ってきた。

「あなたに手紙を送った成田清貴です。今日はようこそ」

咲桜は清貴が握手を求めたのを見て、強張った手を差し出し、握手をして座り直した。

「あの……これ、よかったら後で召し上がってください」

机の上に咲桜が差し出したのは丸の内で買った和菓子である。

「おお、私はね、ここの和菓子が好きなんですよ、嬉しいなあ」

本当に偶然であったが、清貴は思わぬところで好物をもらって喜んだ様子で、咲桜もそれを見てほっとした。

「よかったです。ええと、それで……成田清士さんのことなんですけど……」

夫人が紅茶の入ったティーセットを持ってくる。青いアラベスク模様の上品な食器である。咲桜はそっと会釈をした。

「本当に、あなたで間違いないのですね」

清貴は一応手紙が届き「大戸咲桜」という人がいることや彼女曰く清士に会ったということは分かったが、それが本当かということを一番に確かめたかった。
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