門限やぶりしようよ。

無謀

 想像していたよりお洒落な外観のホテルにある狭い部屋の真ん中には、大きなベッドが鎮座していて、いかにもそういったことをすることを目的としていた。

 今は流れるシャワーの音が、奥から聞こえてくる。

 この部屋に入るなりすぐに優はシャワーを浴びてくると言って、お風呂らしき扉に入っていった。その時に脱ぎ捨てて行った黒い詰襟の学生服を、ハンガーに掛けてあげようと思ったところで悪戯心が沸いた。

 羽織って着てみたら、彼の濃い匂いがした。一緒に居たときにも、時折していた匂いだ。確かに男の子特有とも思える汗の匂いもまじってはいたけれど、優のものだと思うと、けして嫌な気持ちにはならなかった。

 かなり身長差もあるので自分が着ればブカブカになる、大きな制服だ。裾は太ももの半分まで来ている。彼自身の体ではないのに、優そのものに包まれているような、不思議な気分だった。

 ちいさなソファに置いてあった鞄の中の、スマートフォンが震えて、慌てて時計を見た。門限前だ。
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