門限やぶりしようよ。
 彼はそう言って、私の手を引いた。意味ありげなその視線に思わず身を竦めた。今すぐに、何かが始まりそうな気がしたからだ。

「ちょっと……ちょっと待って。私もお風呂に入りたい」

 こういう事になるなんて事前に予想なんてまったくしてなかったから、心の準備ももちろんだけど、そういった準備などもまったくしていない。けれど、それを聞いた優はにこっと笑った。

「ダメ。シャワーを浴びたのは、琴音に嫌がられたら嫌だなと思っただけだけど、本当だったらすぐに雪崩れ込みたいくらいだったんだ。俺は気にしないから気にしなくて良い」

「私は気になるんだけど……」

 急いた様子を見せる彼にもう何を言っても無駄だと思ったけど、一応そう抗議すると肩を竦めて笑った。

「俺は気にならない。もし絶対に入るって言うんだったら、一緒に入る事になるけど……」

 強引さと無邪気さと、私へ向けられた純粋な恋慕と隠せない欲情。とても、逆らえるものではなかった。
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