身ごもり一夜、最後のキス～エリート外科医の切なくも激しい執愛～

アキくんは事務的に私たちの前で足を止めたが、彼からなにか言う前に英知先生が一番に声をかけた。
「おはようございます、日比谷先生。今日はよろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
アキくんは変わらず冷めた瞳だが、英知先生に顔を向け、丁寧なお辞儀をする。
続いて父が、
「近納先生はどうしてるんだい？」
とアキくんへ尋ねた。
「変わらず忙しくしています。水澤病院の取り組みは大変参考になると言っていました」
「えー？ 近納先生ったらお世辞がうまいなぁ。日比谷先生がアメリカから戻って、いろいろまかせっぱなししてるくせにね」
「いえ。自分も勉強になっているので」
近納記念病院の院長、近納崇人(こんのうたかひと)先生は、父と旧知の仲である。
出身大学でも同期、その付属病院で勤めたときも同期で、外科の近納、内科の水澤と、腕とルックスのよさで有名だったらしい。
ただ違っているのは、うちの父は順調に老けていったけど、近納先生は若々しくダンディなおじさまになっていることだ。