身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
すると頬を優しくつねられた。
彼女はいたずらな笑みが浮かべ、
「まさか妊娠……とか?」
と顔を近づけてくる。
心臓が胸の中で収縮した。
驚きすぎてうまく息がコントロールできず、
「そんなわけないよ!」
と大きな声が出てしまう。
「やだもう、冗談だよ」
真緒ちゃんも私の剣幕にすぐ手を離し、「ごめんごめん」と肩をさする。
私と英知先生は婚約してからもまだ体の関係にはなってはいない。
妊娠はあまりにもあてが外れていた。
「そろそろ混んでくる時間だから、はやく支払伝票終わらせちゃお」
「うん」
真緒ちゃんに続いて席に戻り、受付窓口のうしろで経理にとりかかる。
はやくはやくと手を動かすがしだいに減速していった。
左手の白い腕時計は午前十時を指している。
まだ一日はこれからなのに、やはり疲れや、かすかな熱を感じる。
先ほど妊娠と言われ、ふと思い出す。
ここ最近生理が来ていない。
数年前に周期が不安定だった時期があり、それからきちんと把握することをやめてしまった。
六月は来なかったのではないだろうか。
最後に来たのは、たしかアキくんと会った夜の前だ。
< 26 / 33 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop