身ごもり一夜、最後のキス~エリート外科医の切なくも激しい執愛~
ウエストで絞られたクリーム色のシルクワンピースは雨でもへこたれない。
そこへ青い長靴を履いてきた。
子どもみたいに水溜まりを避けずに歩く。
これからアキくんのマンションへ入るけど、玄関へ足跡をつけたくて。
初めて好きになった人。
私と離れても、私を覚えていてほしい。
それ以上なにも望んでいない。
傷つく準備は雨の中でもう済ませた。

バスに乗ると新幹線が停まる駅にやっと着いた。
水澤病院前のバス停からここへ来るまでに、緑は姿を消し、雨は道路や塗装された歩道ばかりを叩く。
長靴を履いている人も姿を消す。
やがて着いた深いブラウンの二十階建てのマンションは、この駅前にある大病院の若い医師ばかりが住んでいると噂だ。
マンションは丸ごと、大病院の会長さんの持ち物らしい。
アキくんもここに住んでいる。
チャイムを鳴らすとドアが開いた。
「星来。入って」
ワイシャツにスラックス姿の背の高いアキくんが現れる。
ノブを開けて少しかがんだ彼の胸板にドキッとした。
先から水の滴る傘と汚れた長靴に目をやり、彼は申し訳なさそうな顔をする。
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