もう、離れるな 〜地味子×チャラ男の一途すぎる両片思い〜
「名前?」


そう言えば。

俺は今、どれだけの人の名前が言えるだろう。

頭の中で、今思い浮かぶ人の名前をできる限り思い出してみる。

まず、琴莉は絶対出てくる。

次に家族。これも当然。

それから…………榎本も、やはり自然と出てくる…………。

それから…………。

…………あれ?

おかしい。

ほとんど、出てこない。

どうしてだ……?



「やっぱりね」


俺の考えを、看護師さんはお見通しなのだろうか。

抜群のタイミングで声をかけてきた。

俺の中には、ほとんど人の情報が入っていないことを思い知らされた、ちょうどその時だったから。

看護師さんは、続けてこう言った。


「まず、あなたはたくさんの人を知りなさい。そして、自分の覚悟を探しなさい」

「覚悟?」

「そう。彼女以外と生きていける可能性もちゃんと考えるの」

「そんなことは」

「ダメよ。できないなんて、言わせないわ。やりなさい」


それから看護師さんはこうも言った。

色々な人と向き合うことで、自分の気持ちがクリアになっていく。

そうすることで、改めて分かることがある。

自分という人間にとって、どんな人が必要か。

どんな苦労なら乗り越えられるか。

そのために、自分が越えなければいけない壁はなにか。

そうして1つ1つ確認をすることで、覚悟が決まっていく、と。




本当だろうか。

本当に必要なのだろうか。

そう言おうとして、やめた。

だってまだ、俺はこの人がやってみろと言ったことすら、やれてない。

今のまま、八方塞がりになるくらいなら。

誰にも認められないままなら。

琴莉と離れることを強制され続けるくらいなら。




「わかりました。ええと……」


俺は、看護師さんの名札を確認した。


「高森……花代さん……?」

「はい」


俺の中に、ちゃんと新たな人間が加わったことが分かった。
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