あの春を、もう一度。
「何度でも咲くよ、桜は」

春の花のように、温かくて優しい、私の大好きな眼差し。

それはもう、“次”を見据えている。

自分が輝くべき場所を見つけて、必死にもがこうと手を伸ばしている。

その姿はいつにも増して眩しくて。

瞬間、悟った。

この人を、いつまでもここに留めておいてはいけない。

離れたくないのは、私の私情で。

側に居られないのは、当たって砕けなかった私への罰で。

この、ひたすらに純粋で綺麗な人を引き留めていい理由になんてならない。

この分岐点に立たされているのは、幾つもの選択を重ねてきた結果だ。

「春野」

きっと、名前を呼んでもらえるのはこれで最後。

悲しい気持ちを押し殺して、精一杯、下手くそな笑顔を浮かべる。

「なんですか?」

背後の夕日から真っ直ぐに伸びるオレンジ色の光の帯が、2人分の長い影を作り出す。

太陽を背負った先輩は、力強く手を振る。

「またな」

次はないと分かっているのに、先輩はやっぱり、当たり前のように未来を約束する。

でも、いつもと違ったのは。

飄々として平気そうな先輩の横顔が、どことなく儚く私の目に映ったこと。

見間違いかもしれない。

けれど、これだけは自信を持って言い切れる。

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