狂った隣人たち
「祐次?」


怖くなって声をかけるが、返事はなかった。


リビングへ入っていったはずなのに、コトリとも音が聞こえてこない。


くるみは自分の心臓が早鐘を打ち始めるのを感じていた。


「祐次どうしたの? なにかあった?」


自分の声がやけに反射して聞こえてくる。


背中に冷や汗が流れ始めて、返事のない祐次への不安が募る。


ゴクリと唾を飲みこんでくるみは靴を脱いで廊下へあがった。


「祐次、入るよ?」


声をかけながらゆっくりと廊下を歩く。


右手にある和室の前にはまだダンボールが詰まれたままの状態で、すでにうっすらと埃が積もっていた。


気味悪さを感じて再び祐次に声をかけようとしたそのときだった。


今まで誰もいなかった廊下に白い服を着た男性が立っていたのだ。


悲鳴が喉に張り付いて出てこない。


男性は祐次と同じくらいの身長だが、その顔は墨で塗りつぶされたように黒く判別することができなかった。


くるみは後ずさりしようとしてその場にしりもちをついてしまった。


壁にピッタリと背中をくっつけた状態で、男性から目が離せずにいる。


すると男性はゆっくりと歩き出す。


足は確かに動いているのに、体はほとんど上下していない。


まるで歩く歩道に乗っているかのようにスーっと滑るように動いていく。


そしてそのままダンボールを通り抜け、和室の中へと消えていったのだった。
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