狂った隣人たち
☆☆☆

「ごめんくるみ、呼んだ?」


祐次の声にハッと目を見開くとくるみは玄関先に立っていた。


「え、どうして?」


くるみは靴を脱いで廊下に上がったはずだ。


そしてあの和室の前で白い服を着た男を見た。


あれは夢だったんだろうか?


自分は立ったまま眠っていた?


わからなくて左右に首をふる。


少し体がふらついた。


「顔色が悪いな。待たせて悪かった、リビングの掃除をしてたんだ。ついで換気も」


そう言われて魚臭さが少し軽減されていることに気がついた。


「今、そこに人がいた」


くるみは震える指で和室前の廊下を指差した。


「え?」


祐次は振り返るが、もちろんそこには誰の姿もない。


「見間違いだったのかな? 私、廊下に上がったはずなのに……」


「いや、行ってみよう」


祐次はそう言うと険しい表情で廊下を進んでいく。


くるみはすぐにその後をおいかけた。


開け放たれているドアからリビングの様子を確認すると、どす黒いものがカーペットにこびりついている。


どうしても取りきれなかった魚の血だろう。
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