裸足のシンデレラは御曹司を待っている
彼が車から降り立った瞬間、爽やかな風が吹き抜け、緑の木々がざわめいた。

目の前にいる彼は5年前と同じように、彫りの深い目鼻立ちが整った美しい顔で微笑んでいるのに、その切れ長の瞳は寂し気に揺れていた。
 
なんで今頃、私の前にまた現れたの?

震える手をギュッと握り込み管理人としての業務を全うする。

「柏木直哉様。『城間別邸』へ、ようこそお越しくださいました。本日より6泊のご予定でご予約承っております。滞在時間中お手伝いさせていただきます、安里遥香と申します。よろしくお願いいたします」

はじめまして(・・・・・・)、安里さん。お世話になります」


はじめまして(・・・・・・)って、言われた。
忘れたくても忘れられなかった大切な思い出の中に住人は、私と過ごした日々を無かったことにしていた。

 
この沖縄、やんばるの地で、今から5年前に一緒に過ごした時間は幻と消えたんだ。

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