裸足のシンデレラは御曹司を待っている
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芝生の間に敷かれた石畳が母屋へと続いている。
わずかな距離が、今の私には果てしなく長い道のりに感じられた。

梅雨明けの強い日差しが、敷地内にあるプライベートプールの水面にキラキラと反射している。

直哉の様子をチラッと覗き見ると、手をかざし眩しそうに目を細め、本土より一足早い夏の日差しを感じているようだった。
彫りの深い顔に陰影がつき、頬に流れる一筋の汗にさえ、男の色香が漂っている。

はぁ~、相変わらず見た目はカッコいい。
33歳になったはずの直哉。あの頃よりさらに顔は引き締まり大人の男になっていた。
その上、東京にあるKロジスティクスの御曹司だから、お金持ちなのだ。

お金持ちでイケメン。そりゃあ、おモテになるんでしょう。
5年前にちょっとつまみ食いした私の事なんて、記憶にも残らないんでしょうね。

直哉が日差しを遮るためにかざした左手、その薬指に目が行く。指輪が無いことにホッとしている自分を情けなく思った。
 
『柏木直哉』という予約を受けた時から今日まで……イヤ、「必ず迎えに来る」なんて甘い言葉に騙された5年前から私がどんだけ悩んだとか、きっと彼は考えもしなかったはずだ。
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