裸足のシンデレラは御曹司を待っている
ホテルから運ばれてきた朝食を食べ終わった頃に、待ちきれないとばかりに真哉が声を上げた。

「ぼく、プール入りたい」

窓の外にあるプライベートプールがキラキラと水面を煌めかせ、”おいで”と呼んでいるような環境、子供にはたまらなく魅力的に映るはずだ。

直哉が小さな息をつき、私に視線を向けた。そして、頷くと真哉にゆっくりと話しかける。

「シンちゃん。パパは足をケガしてしまって、大きな傷があるんだ。その傷がシンちゃんに移ったりはしないけど、プール入る時に見たら怖くなるかもしれない」

「パパ、ケガしたの? いたかった?」

好奇心いっぱいの真哉の様子に少し困り気味の直哉。

「ああ、痛くて歩けなくなるかと思った。でも、頑張って歩けるようになったんだよ。でも、ケガが酷かったから大きな傷が残ってしまったし、立ったままシンちゃんを抱っこ出来ないんだ」

「ケガ、みせて!」

私に視線を向けた直哉に頷くと、直哉は緊張した面持ちでゆっくりとズボンの裾を上げた。赤くケロイド状に残った傷跡が現れる。大人の心配をよそに真哉は傷に手を伸ばす。

「パパいたい? ぼくが、おまじないしてあげる。いたいのいたいのとんでいけー」

真哉は、おまじないの言葉を言い切ると満足げに直哉に笑顔を向ける。ホッとした表情になった直哉は、柔らかく微笑んだ。

「ありがとう、楽になったよ。座ってなら抱っこ出来るから、ママが水着を持って来てくれる間、一緒にゲームしよう。おいで」

手を広げたパパの膝の上に座った真哉がゲームを持ち上げ、照れくさいのか、おどけた口調で言った。

「ぼく、4さいだから、おにいちゃんなんだよ」

傷跡を見て真哉が怖がると思い込み、尻込みしていた大人たちを一蹴するような子供の思考の柔軟性やたくましさに励まされる。これだから子育ては楽しい。
ふたりで仲良くゲームを始めたのを見て、フッと笑みがこぼれる。

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