裸足のシンデレラは御曹司を待っている
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◇ ◇ ◇

「手間をかけさせて悪いね。だいぶ前に車の事故で……たまに、左足に力が入らないことがあるんだ」

直哉の言葉に思考が呼び戻された。
5年前のほんの僅かな期間、人生が交差しただけの二人。知らないことが多くて当たり前だ。
でも、事故に遭っていたなんて……。
『必ず連絡をする』と言って去って行ったにも関わらず、連絡が取れなくなったことを恨みこそすれ、彼の不幸を祈ったわけじゃないのに。

「……大変でしたね。何かお手伝いがございましたら、遠慮なくおっしゃってください」

直哉は、壁に手を付きゆっくりと立ち上がった。
リビングに移動し、何かを探すように窓の外に視線を移す。
そして、思い詰めた様子で口を開いた。

「今回、一か所だけ行きたい所があるんだけれど、階段が多そうなんだ。一緒に行ってくれると助かる」

直哉の言葉を聞いて思わず息を飲む。
もしかして……。と、5年前の事が胸を過った。
でも、はじめましてと言われた手前、こちらから訊ねる訳にはいかない。
それに階段が多い場所なんていくらでもある。それなのに手が震えるほど動揺している。

もう、5年前と同じ失敗は侵さない。仕事をしなくちゃ。
震える手をギュッと手を握りしめ自分自身に言い聞かせた。
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