裸足のシンデレラは御曹司を待っている
数ある沖縄の宿泊施設がある中で、なぜ、彼が『城間別邸』を再びチョイスしたのかがさっぱりわからない。
はじめましてと言った時点で私に会いに来たわけでもなさそうなのに……。

「ネットの予約サイトで見た時に驚いたけど、実物の建物はすごいな。全面ガラス張りの家とか考えもつかない。開放感がすばらしい」

あれ? ナニ言ってんだろう? 前にも来たことがあるのに、初めて見るようなこと言っている。
少々、疑問が残ったけれど、お客様である以上無下にも出来ない。

「はい、こちらは、オーナーで設計士でもある城間が自身の別荘として建てたものでして、遊び心もふんだんに盛り込まれております。全面ガラス張りであっても植栽が目隠しの役目を果たし、近隣とは切り離されされた憩いの空間を演出しております。庇も長く、空気の循環を考えた流体力学を考慮しての設計で、自然の風で涼しく快適にお過ごしいただけます」

「へー、すごいな。別荘建てるときは、ここの設計士に頼もうかな?」

はいはい、御曹司なら別荘も容易いでしょうよ。
なんて、言えないから、作り笑顔を張り付け返事をする。

「そう言って頂けるとオーナーの城間も喜ぶと思います」

「ここの建物の写真を見た時に、引き寄せられる気がした。現物を見て、何故かとても懐かしい気持ちにさせられたよ」

は~、勝手に記憶から削除した癖に懐かしいも何もあったもんじゃない。
お仕事がお忙しい御曹司様にとっては、5年前の休暇の出来事なんて些細なものだったんで記憶に残らないんでしょうね。
私をもて遊んだ挙句、こうして知らんぷりを決め込む直哉に一発ぶちかましたい。
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