裸足のシンデレラは御曹司を待っている
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Side 直哉 ~記憶再生~

◇ ◇ ◇

スポーツタイプの車から降り立つと、抜けるような青空、強い日差しがジリジリと肌を焼く。
それでも、都内のネバつくような不快感とは違った暑さが心地いい。

28歳の俺に親の勧めた縁談。
特に結婚する気も無く、付き合っている人がいるわけではなかった俺は会社のためになるならと、話を進めていた。
それなのに婚約者に浮気をされた。婚約破棄の手続きを弁護士に丸投げして、傷心旅行という名目で、無理やり休みをもぎ取り、誰にも告げずに沖縄に来てしまった。

元々、気の乗らない縁談。
向こうの過失で破談になったのは助かったが、自分には穏やかな家庭など一生望めそうにない。そんな後ろ向きな気持ちになる。

花ブロックを越えた辺りで、こちらに誰かが、走って来る気配がした。

「城間別邸にようこそお越しくださいました」
息を弾ませ、明るい声のする方に顔を向ける。

そこには、20代半ばぐらい、沖縄らしい少しエキゾチックな顔立ち。
黒目がちの綺麗な瞳が印象的で、真っ直ぐな黒い髪を後ろに束ねた女性が立っていた。

海からの風が爽やかに吹き抜ける。

ひとめぼれ。

そんな言葉が頭を過る。

そんなのは、小説やドラマの設定ぐらいにしか思っていなかったのに、真っ直ぐ向けられる邪気のない瞳に魅せられてしまう。
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