裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「シンちゃん、おじさんがね。絵本くださったの。ありがとうしてね」

遥香の口から出た《《おじさん》》という言葉に打ちのめされる。遥香は、どんな気持ちでいるのか、彼女のよそ行き顔からは窺い知ることが出来ずにいた。

「おじさん、えほん、ありがとう。やった!トーテムのえほんだ」

袋の中から絵本を取り出し、はしゃぐシンちゃん。その様子に遥香は眉尻をさげ少し困った顔を見せる。

「ご心配おかけして……。この通り元気なんです」

シンちゃんに視線を移した遥香は、よそ行きの顔から変わり、穏やかな母親の表情を浮かべた。

「元気そうで安心したよ。顔の擦り傷が痛々しいけど、男の子はやんちゃなぐらいが、ちょうどいい」

「そうなんですけど、その分、心配も多くて……」

嬉しそうに絵本を見ていたシンちゃんが、パッと顔を上げた。そして、慌ててサンダルを履き、俺の横をすり抜け、玄関からとび出して行く。

シンちゃんの後を追うように振り返った俺の目に、ガッシリとした身体つき、浅黒い肌、短く刈れた髪型の男性が映る。

「ようちゃん、みて!トーテムのえほん、きのうのおじさんにもらったの」

「シンちゃん、絵本もらったのか。良かったな」

男性はスッと手を伸ばし、シンちゃんを高く抱き上げた。
高く抱かれたシンちゃんは満面の笑みを見せている。
まるで、本物の親子のような二人。

憧れてやまないその光景に胸の奥が絞られるように痛む。自分の居場所がここには無いんだと思い知らされた気がした。

男性は、シンちゃんを抱いたまま、俺の方を向く。
その瞳は、鋭く俺を見据えていた。

< 87 / 179 >

この作品をシェア

pagetop