裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「……柏木様、城間別邸ご利用ありがとうございます。私、管理責任者の城間陽太と申します。昨日、ウチの安里が柏木様のお車の前に飛び出し、ご迷惑をお掛け致しました。申し訳ございません。その後、体調いかがでしょうか?」

城間陽太と名乗った男性は口角を上げ、落ちついた口調で話しかけて来るものの、瞳は相変わらず鋭いままだ。
昨日、遥香の家にお医者さんが来た時に聞こえた”遥香”と名前を呼び捨てにしていた声と同じ人物だ。シンちゃんの懐いている様子からもとても近しい間柄だと容易に想像できる。
苗字が別だから結婚はしていないだろうが、恋人同士なのだろうか?
チリチリと胸の奥が焼ける。
それでも、大人の対応で返事をする。

「おかげさまで、すっかり良くなりました。こちらこそ、ご迷惑をお掛けして申し訳ございません」

「ご快復されて安心致しました。本日、わざわざこちらに、お越しいただいたのは、お忘れ物でもございましたか?」

丁寧に訪ねているようではあるが、これは、暗に”用もないのにココに来るな”と言っている。

陽太の険の有る様子に気付いた遥香が、困った顔で口をはさんだ。

「朝食の片づけをしている時に保育所から電話があったから、シンちゃんが怪我したのを知っていらして、わざわざお見舞いを持って来てくださったの」

「シンちゃん、えほん、もらったのー」

腕に抱くシンちゃんからの一言に、城間はフッと表情を緩ませ、優しい目を向けた。それだけで、どんなにシンちゃんの事を城間が大切に思っているのかがわかる。
その愛おし気に見つめる瞳は、まるで父親のようだ。
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