裸足のシンデレラは御曹司を待っている
「昨日、急におじゃまして悪かったね。シンちゃんの怪我が酷く無くて安心したよ」

会話内容は穏やかなのに、彼の瞳が不安そうに揺れているのが気にかかる。
それを拭うように明るい声を出し、手にしたバスケットを持ちあげた。

「はい、ありがとうございます。シンも大喜びで絵本見ていました。あの……お食事は、ダイニングテーブルにご用意してもよろしいでしょうか?」

「ああ、ダイニングでいいよ。食事の後、時間もらってもいい?」

「はい、大丈夫です」

パタパタとキッチンに入り、バスケットからタッパーを取り出し、プレートに盛り付ける。
その合間に直哉の様子をチラリと見る。彼は、リビングテラスのソファーに座り、思い詰めたように窓の外を見つめていた。

やっぱり、記憶が戻るためのお手伝いをして、私の事を思い出してもらいたい。きっと、彼の心の隅に私との思いでが眠っているはず。
滞在期間内に思い出してくれる事に賭けてみよう。

ダイニングテーブルに朝食を並べ終わったタイミングで声を掛けた。

「お待たせいたしました。お食事の間に水回りの清掃をさせて頂きます」

「ありがとう。お願いするよ」

直哉がゆっくりと立ち上がり、ダイニングテーブルに近づいて来る。
高い身長、以前よりも少し細くなったとはいえ、バランスの良い体躯に見惚れてしまう。
俯き加減だった直哉が顔を上げた。長いまつ毛に縁どられた切れ長の瞳。そのきれいな虹彩が私を見つめた。
彼の唇が動く。

「安里さん……」

それだけで、ドキンと心臓が跳ねた。

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