社長の渇愛
(竪羽って、男性の名前じゃないってこと?
え?ま、まさか!浮気……!!?
いやいや、亜伊がそんなこと……
でも待てよ……あ!じゃあ…亜伊から香水の香りがしたのも、抱き合っていたから?)


“心花!?こ、これは……!!”
“心花、あんたが星乎を蔑ろにするからよ!”

不意に、元彼のことが蘇った。
亜伊に出逢ったあの日のことを━━━━━

あの日、内定が全てダメで彼・星乎のアパートに向かった。慰めて欲しくて……
しかし、心花の友人と抱き合っていたのだ。



心花は心が死んでいくのがわかった。
星乎の時とは比べ物にならない、絶望と苦痛。


「ん…」
そこに亜伊が目を覚ました。

「心花…」
亜伊が心花の手を引っ張る。
心花はされるがまま、亜伊に覆い被さる。
そして亜伊は、そのまま心花を抱き締めた。

「んー、幸せー!朝起きたら、心花がいる。
もう……死んでもいいやってくらい……!」



「━━━━━━だったら、殺してあげましょうか?」



「え……心…花…?」
亜伊は、自分の耳を疑った。
心花からは想像のできない言葉。

亜伊は心花を支えたまま、ゆっくり起き上がった。

「心花、どうした?」
心花の頬を手で包み込み、窺うように言う。

「亜伊」
「ん?」
「亜伊」
「何?」

「私、ワガママ言っていいんですよね?」
「うん、いいよ!」
「我慢、しなくていいんですよね?」
「うん!」

「だったら、竪羽さんに会わせてください」

「は?」
一瞬で、亜伊の雰囲気が黒く落ちる。

「竪羽さんに会いたいです」

「なんで?
…………つか!頭から消せっつったよな!?」

「亜伊は、私以外の人が頭の中にいるのに、私だけが消すのはおかしいです!
それに“友達”なんですよね?
だったら、いいじゃないですか!?」

あまりにも恐ろしい亜伊の雰囲気。
しかし、今の心花は全く怖いと感じなかった。

「会わせるわけねぇだろ!?」
「どうしてですか!?」

「お前は俺のもんだからだよ!?
なんで、俺以外の男に会わせなきゃいけねぇの!?
御笠や、他の社員でも嫉妬で死にそうなのに…!!」

「え………お、とこ?」
「あ?」
「竪羽さんは、男の人?」

「あぁ、そうだよ!ダチだって言ったじゃん!」

「え?え?え?」
心花は、放心状態で亜伊を見つめる。

「は?心花、まさか…竪羽が女だと思ったの?」
「はい、てっきり……」

「はぁー、マジかよ……!?」
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