お昼寝御曹司とふたりだけの秘密
番外編 幸せにする
Side 司


〝涼本社長の息子が結婚するらしい〟という話は、いつのまにか周りに広がっていた。
 どうせ父が酒の席で友人たちに話をしたのだろう。

 そこからどんどん広がっていき、まだ式の予定も立てていないのに『結婚式はいつ?』と、父の周りの人々から俺のところへ連絡が来る。

 正直、今はそれどころではない。
 新しい企画の進行が遅れていて、毎日仕事で帰りが遅くなり、香菜との時間も上手く確保できていないのだ。

 結婚しようと言った途端にこうなり、彼女に余計な心配をさせてしまっているかもしれない。

 無い時間は無理にでも作る……と言いたいところだが、そんなことできていたらとっくに香菜と過ごしているだろう。

 定時を二時間過ぎても残る仕事に呆れはじめた頃。

「涼本、あとは俺がやっておくからお前上がっていいよ」

 タブレットを操作しながらミーティング室から出てきた神坂がそう言った。

「あとは書類の確認だけだろ?」

「そうだけど……結構多いぞ」

 デスクでパソコンを操作しながら答えた俺が顔を上げると、神坂がそばに来ていた。

「忙しくて、また野山さんが心配して悩み出すかもしれないだろう。貸しにしておいてやる」

「……助かるよ」

 俺がそう言うと、神坂は任せろというような得意げな笑みを浮かべた。
 同期の中で俺について来ることができるのは彼くらいだ。仕事面では頼りになる。
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