逃げたいのに、ヤンデレ彼氏が離してくれません

 ご飯を食べ終わってお風呂やら歯磨きやらを済ませた後、さして面白くもないお笑い番組を見ながら、私は思う。

 現在の自分に戻るには一体、どうしたらいいんだろう。ひょっとしてもう一回寝たら、16歳の私に戻っているのだろうか。

 それとも……一生このまま?

 うつらうつらと、そんなことを思いながら、夢と現実の狭間を行ったり来たりしている。

 遠くの方で、成瀬くんの声がしている。けれど、言葉の意味まで理解ができない。

 ふわり、と身体が浮く。
 背中に回された腕がぽん、ぽん、と一定のリズムを刻んでいる。


「むぎ、もうベット着く」

「……んん」

「……どした? 今日のむぎは甘えん坊?」


 どうしてだか離れがたくて、ぬくもりを感じる方へ身を寄せた。


「大丈夫、すぐ戻ってくるから。いい子で待ってて」


 優しく額に何かが触れて、背中に回っていた腕がするりと抜ける。
 ぬくもりを失った背中が寂しくて、少し冷たいシーツの上で猫みたいに丸くなった。


 ──ぶーぶーぶー。

 何かが、私の眠りを妨げるように鳴っている。うるさい。

 ──ぶーぶーぶー。

 鳴りやまないその音が煩わしくて、私は薄く目を開く。
 ブルーライトの鮮明な光が眩しくて、反射的に片目を瞑る。

 ……スマホだ。誰の? たぶん、成瀬くんの……って、あれ……?


 靄がかった頭が次第に晴れていく。それと同時に、耳の中で心臓の鼓動が大きく響く。


 今が、チャンスじゃない? 
 
 電話の相手が誰かは分からない。番号の表示のみ。未登録の番号だ。
 

 けれど、もし、電話の相手に助けを求めたら──私は、ここから逃げられるんじゃ……?



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