逃げたいのに、ヤンデレ彼氏が離してくれません

「ぅんまぁ~~~~~~~~~~!!」


 私の前に並べられた名も知らないお洒落な料理の数々。
 まるでフルコース料理のよう。ダイニングテーブルに次々と料理をのせたお皿を運ぶ成瀬くんが、すくりと笑った。


「おおげさだな。いつも食ってるだろ?」

「アッ……そ、そうだけど……今日は一段と美味しいというか……」

「変なむぎ」


 向かい側の席に腰を下ろした成瀬くんが頬杖を突いて、柔く目を細めた。

 その目を見ただけで、もう、分かる。
 言葉に出すまでもなく、私のことを愛おしく思っているのだと、伝わってくる。

 私はペペロンチーノを巻き付けたフォークを咥えたまま、その瞳が直視できなくて目を逸らす。

 この脈打つ鼓動が16歳の私の感情なのか、それとも未来の私の感情なのか分からなくて、分かったらいけないような気がして、私は誤魔化すように口を開く。


「なっ、成瀬くんはきっといいお嫁さんになるよ」

「……いいお嫁さん?」

「いやその深い意味はないよ!? ただ何となくそう思ったってだけで! 気を悪くさせちゃったら、ごめん」


 成瀬くんは薄く笑った。


「じゃあ、むぎが貰ってくれる? 俺のこと」

「ええ!!?? もらっ!?」

「……冗談だよ」

「あ、ああ……冗談……(心臓に悪すぎる)」


 肩を撫でおろしたのも束の間、私の左手を成瀬くんの長い指が掬い上げる。


「だって、幸せになる資格、俺には無い」


 彼が唇を寄せた場所は、左手の薬指だった。
 そこには、神様に誓い合った証明など無い。

 だって、この歪んだ関係は、真実の愛とはあまりにかけ離れている。
 何の変哲もなく穏やかな日常は、薄氷の上にのみ成り立っているのだ。
 私の左足に架された優しい毒を受け入れ続ける限り続く、かりそめの恋人ごっこ。


「むぎが傍にいてくれるなら、他に何もいらないから」

「……」

「どこにも行かないで」


 10年後──もう、私たちは後戻りできないところまで来ているのだと、その時、ようやく悟った。


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