仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。

3、新しい生活と久しぶりの温かさ


 父の葬儀が終わってからは目まぐるしい毎日であっという間だった。会社が倒産することを従業員に伝え、取引先にも今受け持ってる注文で最後となること、迷惑をかけることを謝り、寂しさに打ちし枯れる暇もない毎日。けれど夜は寂しくて、一人眠れない夜を何度も過ごした。時計の秒針がやけに大きな音で聞こえた。
 無事に今日父の四十九日も終え、母と同じ墓に納骨。そして、玲司に「終わったら、僕の家に越しておいで」と言われたその日が今日だ。
 静かで肌当たりの優しい秋風が穂乃果の身体をすり抜けていく。工場を外から眺めるけれど外から見てもなにも変わったようには見えない。
 一歩工場の中に入ればモノ抜け殻になってしまった工場。なんの音もしない。静かだ。
 倒産手続きも終わった。一人じゃ訳わからなかったと思うがずっとお世話になっている税理士さんが手伝ってくれ、従業員に退職金も払えた。玲司との結婚の約束の一つである従業員の再就職先も玲司の秘書の原口さんが手配してくれたそうだ。
 淡々と進んでいく現実。ついに無くなってしまった自分の居場所。
 辛すぎる現実を目の当たりにして目の奥がジンと熱くなり、泣きそうになった。


「……もう泣かないって決めたんだから」


 ギュッと頬をつねり泣くのを我慢した。我慢しながらガラガラと古い扉を閉めてその場を立ち去る。

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