仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「そう、ならいいけれど。じゃあ今日はゆっくり休みなさい、また飲み物とか後でもってくるからね」


 玲司は穂乃果の髪を梳きながら優しく後部を撫でてくる。その大きな手がなんだかすごく安心感を与えてくれ急に睡魔が襲ってきた。


「穂乃果、なにか辛いことがあったらすぐに電話すること。ささいなことでいい、水くださいでも僕はすぐに飛んでくるからね」
「はい……」


 人に優しく介抱されるなんて、何年ぶりだろう。父も桃果が産まれてからは身体の弱い桃果ばかりを心配し、自分が熱を出しても一人部屋に放って置かれていたことを思いだした。穂乃果はいつしか具合が悪くても人に頼ることをしなくなったのだ。頼って一人にされたらもっと寂しいから。なのに、嫌なはずなのに、憎んでいるはずなのに、今日はこの男の手が心地よい。


「眠そうだ。横になりなさい」


 ぼやぼやした意識の中ベットに横になる。玲司が綺麗に布団を掛け直してくれた。じわじわ後頭部から伝わってくる冷たさが気持ちいい。


「おやすみ」


 部屋から出ていかずに玲司は穂乃果の頭をまた優しく撫で始めた。だんだんゆっくりと落ちてくる瞼に抵抗する気はさらさらない。細まる瞳には玲司の優しい表情が映っていた。

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