仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「ん、とても色っぽくて綺麗だけど、その顔は反則。我慢できなくなるだろう」


 玲司はテカテカと光る口元を手の甲で拭った。お互いの粘液と穂乃果の赤いリップを。


「顔の赤みが引いたら行こうか。リップも塗り直してもらわないとね」
「なあっ……」


 鏡に映った自分の姿が目に入る。デコルテまで紅潮させ、なんてだらしない艶めいた顔をしてるのだろう。恥ずかしい。好きでもなんでもないのにキス一つで、女を喜ばせるような定型文で、こんなにも自分が女の表情をしてしまっていることが恥ずかしい。


「そろそろ行こうか」
「……はい」


 差出された手にそっと手を乗せた。こんな表情は今ここに落としていく。全部。



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