仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「桃果! しばらく来れなくてごめんね」
「お姉ちゃん! 待ってたよ! なんで結婚したことすぐに教えて来れなかったの!?」


 ベットから落ちそうなくらい前のめりな姿勢で桃果は嬉しそうに笑顔を向けてきた。


「な、なんで結婚のこと桃果が知ってるの!?」


 桃果にはもう少し落ち着いてから言おうと思っていたし、工場の人たちにも誰にも言っていない。なのになんで!?


「お姉ちゃんの旦那さんが来てくれたんだよ! 玲司さん、とってもいい人だね!」
(あの男、いつの間に来てたのよ!)
「ほらみて! このパジャマだって玲司さんが買ってきてくれたんだよ。このクマの人形もそうだし、このお花もそう! あとこの可愛いゴムも!」


 確かに桃果の病室が少し華やかになっていた。肩までの長さの綺麗な黒髪は小さな花のビーズがたくさんついたゴムでポニーテールに縛られている。なかなか花も高くて買ってあげられなかったし、パジャマだって穂乃果が小さい頃に着ていたおさがりばかり。今桃果が着ているのは小花柄のかわいいピンクのパジャマ。花が大好きな桃果が喜ぶはずだ。父が亡くなってかなり落ち込んでいた桃果がこんなにもはち切れそうな笑顔を見せてくれるなんて。玲司のおかげとはいえツンと鼻の奥が痛んだ。


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