仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


 スマホの指示通り十分程度でついたホームセンター、穂乃果のお目当ての花たちはちょうど外に沢山売られている。種や球根から育てるのもいいけれど、今すぐに庭を綺麗にしたかった穂乃果は既に咲いていて植え替えればいいだけのパンジーを購入しようと考えた。


「どうしようかな、素敵な色ばっかりで悩むわ」


 同じ色でも花一つ一つの色も模様も違いかなり悩む。穂乃果は暫くパンジー売り場の前から動けずにいた。


「穂乃果さん」


 急に自分の名前を呼ばれて驚いた。振り向くと林田がニヤッと笑って立っている。


「は、林田さん、お久しぶりですね」


 正直言って会いたくはなかった。以前林田からの告白を断ったあとに工場の契約を切られてしまったのだ。引きつる顔を必死で作り笑顔に変える。


「たまたま買い物に来ていたら穂乃果さんが見えたんだな」
「そうなんですね。ではまた、買い物が終わっていませんので」
「またね、なのだ」


 林田はにやぁっと笑うと店内の中に入っていった。それを確認すると穂乃果ははぁぁっ大きくため息を付き、新しい空気を沢山吸った。なんだかどっと疲れてしまい、とりあえずいいなぁと思っていた定番の黄色のパンジーや、濃い紫のパンジー、ピンクとオレンジのパンジーを籠にいれ、会計を済ませる。あまり買うと重くて持ちきれないので今日はとりあえず片手に五株ずつ持ち、合計十株買って帰ることにした。


「う……意外と重いわね」


 でもこれで庭が明るく綺麗になると思うとさっきの林田との遭遇で疲れていたはずなのに心が踊る。


「玲司さんも喜ぶかしら……って! なにいってんの!」


 盛大な独り言にジロっと不審な人を見る目で周りの人から見られてしまい恥ずかしくなって急いでホームセンターを出た。


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