仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。

10



 貴族のソファー(穂乃果が勝手に命名した)に座り優雅にコーヒーを朝から飲む玲司。見ているテレビは録画しておいたバラエティー番組なのに、組んだ足が長くて、ただコーヒーを飲んでいるだけなのに凄く絵になる。
 そんな玲司を横目に穂乃果はリビングの中をウロウロしていた。優雅にコーヒーなんて飲む柄じゃないし、昨日仕事をしたいと玲司に申し出たが断られ、掃除ももう終わってしまっている。


(あ〜、一人じゃないっていうのもなんだ落ち着かないし、やる事ないし、うぅ〜っ)
「穂乃果」


 呼び止められ足を止める。


「はい?」
「そんなに働きたいのか?」
「も、もちろんです!!!」


 勢いよく返事を返した。働かせてもらえる!? 昨日はあんなに反対して、あんなに激しく独占欲を丸出しで抱いてきたのにどういった風の吹き回しだろうか。思い出しただけでキュンと下腹部が疼いた。


(やだ……思い出しただけなのに。もうっ、考えない考えない!)


 ブンブンと顔を振り、淡い期待を胸に玲司に近寄った。


「仕事、してもいいんですか?」
「なら、俺の会社で働きなさい」
 ん? 俺の会社? 桐ヶ谷製菓ってこと?
「玲司さんの会社、ですか?」
「そうだよ。最近秘書一人だと原口が忙しそうだから原口の秘書補佐って事でいいなら穂乃果に任せたい」


 働けるなら働きたい。でも秘書補佐ということはずっと玲司と一緒と言うことだろうか。それはそれで気が抜けないと言うか……でも、玲司の会社で働けばなんで工場の契約を切られたのか分かるかもしれないし、この男の弱みなんかも握れちゃったりして。これは穂乃果にとって玲司の事を知れるチャンスかもしれない。


「働けるなら、働きたいです! でも、その……」


 働きたいけれど一つ気になることがある。自分が玲司の妻として会社の人達は知っているのだろうか。知っているのであれば働きづらい。好奇の目で見られるのだけはごめんだ。

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