仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


「ん? 嫌かな?」
「いえ、嫌ではなく働けるなら嬉しいんですけど、その、私のこと会社の人たちは知っているのかなぁって」
「知ってるって?」


 玲司は見たことのある意地悪な顔をしていた。これは絶対に言わせようとしていることが穂乃果にも手にとるように分かる。玲司は穂乃果に妻、と言わせたいのだと。穂乃果はもう開き直って口にした。


「だから、私が玲司さんの妻だってことをです」
「あぁ、まだ知らないよ」


 まだ、という言葉に違和感を感じたが会社に公表されてないのはこっちとしても好都合。妻だと会社の人に知られたら働きづらいだろうし。


「なら、よかったです」
「じゃあ、僕の秘書補佐という事でしばらくは働いてみようか」
「ええ、お願いします」
「よし。なら、服を買いに行こう。君はオフィス用の服を持っていないだろう? 今日僕は休みだから一緒に穂乃果の服を一式揃えに行こう」


 飲んでいたコーヒーをローテーブルに置き玲司は立ち上がった。


「初めてのデートだね」
「は? デート?」
「ああ、デートだよ。さあ行こうか」
「ええ!? 今からですか!?」
(今日も動きやすい薄手のトレーナーにデニムなんですけど!? オフィス用の服って絶対お洒落な店だよね!? 絶対に嫌!!!)
「わ、私ネットで買いますから!」


 家から出たかったのにいざとなると出たくない。出たくないと言うより、一人だったら出られたのだ。庶民の格好で、こんな家にいるだけなのにキラキラしている玲司の隣を歩くなんて無理。


「ネットじゃすぐに届かないよね? 仕事したいなら明日から出勤してもいいし、今日買いに行くよ」


 ぱしんっと腕を取られ引きずられるように家を出た。


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