仕方なく結婚したはずなのに貴方を愛してしまったので離婚しようと思います。


 久しぶりに訪れた桐ヶ谷製菓。まだ工場がある時に穂乃果も何度か桐ヶ谷製菓を訪れた事があった。本社の隣にお菓子を作っている工場があるが、穂乃果は本社の方で原口の秘書補佐として今日から働く。
 見上げる程の高層ビル、いつもは来客として受付から入っていたが今日は玲司の後ろを一歩下がった位置で着いていく。出社した社員の人たちから「社長、おはよう御座います!」と四方八方挨拶を受けつつもきちんと全員に「おはよう」と玲司は挨拶を返していた。後ろにいる穂乃果に突き刺さる「この人誰?」視線に耐えながら玲司の後を必死で着いていく。
 エレベーターが八階で止まり降りるとすぐに社長室の文字が見えた。


「ここが僕の部屋。秘書室は隣にあるんだ」


 社員証をピットかざすと社長室のドアが開き、玲司が穂乃果を「入って」と誘い入れる。


「し、失礼します……」


 来客室や会議室は何度か入ったことはあったが社長室は初めてだ。ブラウンの絨毯が敷き詰められていて、沢山の商品パッケージがズラリと並んだ壁が物凄く印象的な部屋。

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