冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる



 母屋にあるリビングに入り、キッチンに向かう。ソファーに座る伊吹(いぶき)が、野菜ジュースを片手に、食器棚からお皿を取り出す私を視線で追ってくる。

「ちょっと寝坊しちゃったみたい」

 物言いたげな伊吹に、先手を打って話しかける。

 彼女は、妹の綾城伊吹。高校2年生になる。私はいつか、名家に嫁ぐのだからと厳しく育てられたけれど、彼女はどこにでもいる普通の高校生のように、自由を謳歌している。それこそ、起きる時間も、恋も。

「お姉ちゃんにしては珍しいね。あ、でもさ、昨日は大変だったんでしょ? 西園寺家って、うちと違って堅苦しそーだし」

 キッチンカウンターの前までやってきた伊吹は、野菜ジュースをチューッと飲むと、肩をすくめる。

「そうね。慣れない方との会食は、大変」
「会食だったんだー。たくさん車が出入りしてたから、何かトラブルでも起きたのかと思ってた」

 時々、伊吹は鋭い勘を働かせる。

「出入りしてた?」
「うん。昨日は部活なかったから、ずっと部屋にいたでしょー。窓から、道路が見えるから」
「あんまりのぞくようなことしたら、ダメよ」
「のぞいてないって。見えちゃうの」
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