冥婚の花嫁は義弟に愛を注がれる
「いやいや、違うんです。妻が以前から華道をやってみたいって言ってまして、近くで習える場所がないかなって調べてたんですよ」

 なー、すみれちゃん。と、颯太はすみれに話しかける。彼女はけげんそうにしていたが、頭を下げるようにうなずいた。

「それで、綾城堂をご存知で。ありがとうございます」
「一度、体験に行きたいなって思ってるうちに子どもができて、なかなか行けなかったんですよ。華道教室って、体験できましたよね?」

 どうやら、彼らの教室への興味は尽きていないらしい。体験希望の方は大歓迎だ。

「ええ、華道は毎週金曜日です。体験ご希望の場合は、事前にお電話をいただけましたら。お子さんはご一緒で大丈夫ですよ。……ごめんなさい。今は案内のパンフレットを持っておりませんので、詳細はホームページでお調べください」
「あー、全然大丈夫ですよ。まだ子どもも生まれたばっかりなので、妻と相談して、お邪魔させてもらいます」
「はい、お待ちしております」
「すみません、急に。ありがとうございます」
「こちらこそ、ありがとうございます」

 私はすみれに視線を移し、にっこりと微笑みかけて頭をさげた。

 彼女は不安そうにこちらを見ていたが、ますます申し訳なさそうに眉を寄せ、颯太の腕に「ご迷惑よ」と触れながら、小さく頭をさげた。

 上品で大人しい奥さんと、明るくて社交的な旦那さんみたい。仲が良くて、ちょっとだけ羨ましい。

 夫妻の注文した飲み物が運ばれてくる。私はもう一度、軽く会釈して前を向くと、ふたたび紅茶カップを持ち上げた。
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