翠も甘いも噛み分けて
「あれ? 伊藤ちゃん、ダイエット止めたの?」

 翠のお弁当を目敏くチェックする同僚の言葉に、翠は顔を上げた。同僚に返事をする前に、近くに浜田(はまだ)がいるかどうかを確認する。浜田こそ、翠がダイエットをするきっかけとなった張本人だ。
 昨日の今日でこんなことを言ってはなんだけど、なんであんな人のことを尊敬していたのか分からない。幸成への恋心を自覚した今、浜田は仕事上の先輩として割り切れるようになった。もう、憧れの気持ちはない。
 ちょうど翠の斜め後ろの席に座る浜田を意識して、少しはにかみながら、聞こえるように返事をする。

「はい、もう必要なくなりましたから」

 思いもよらない翠の反応に、声を掛けた同僚だけではなく周囲にいた人たちがざわつき始めた。もちろんその中に浜田がいることも確認すると、翠は深呼吸を一つして、再び口を開いた。

「……彼氏ができました!」

 一瞬の沈黙の後、みんなが一斉にえーっ、と奇声をあげた。そんなに驚かなきゃならないことなのかと怪訝な表情を浮かべる翠に、周囲の人が矢継ぎ早に質問する。

「えー、おめでとう。彼氏できたのにもうダイエットしなくていいの? 体型維持とか考えないの?」

 別の同僚が野次馬で翠に質問を投げかけると、翠は照れながらも幸成の言った言葉を口にする。

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