翠も甘いも噛み分けて
あの日の約束
 幸成と一緒に会社を出た翠は、浜田の豹変ぶりに怯えていた。もし明日、浜田が出勤してきたら……もし、ストーカーみたいに付きまとわれたとしたら……そう考えただけで、怖くて言葉にならない。
 すっかりふさぎ込んでしまった翠を元気付けようと、幸成は自分の自宅へと招き入れた。

 幸成の自宅は、VERDEの二階部分だということを翠はこの時初めて知った。この建物が新築ということは知っていたけれど、二階の居住スペースは大家さんが住んでいて、一階部分はてっきり賃貸物件だと思っていたのだ。
 二階へは裏に外付けの階段があるけれど、店舗内の作業場からも、二階へ上がれる階段があるのだという。まだ開業して三か月、家は新築独特の匂いがする。

「ご両親はお仕事……?」

 居住スペースのダイニングに通された翠は、席に座らされ、幸成はキッチンへと向かった。お茶でも淹れてくれるのかと様子を伺っていると、パントリーの扉を開き、中に置かれている物を物色し始めた。

「いや、ここに住んでるのは俺だけで、両親は今も変わらず実家に住んでるよ」

 意外な言葉に翠は驚いた。幸成が前の職場から独立して開業したのは有名な話だけど、店舗兼住宅を建てていたなんて……店舗だけならともかく、幸成は独身だからこそ、住居までとは予想すらしていない展開だ。

< 35 / 51 >

この作品をシェア

pagetop