天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 私は、どんなに彼に嫌われても構わない。でも、この子は――。

 涙が頬を伝い、ベッドにぽとりと落ちたところで母から電話があった。

 事情を説明すると『わかった。来週には帰る。なんとかしましょう』と言ってくれた。

『せめて一週間の間だけでも啓介さんにお願いして、なんとか待ってもらって』

「わかった」

『じゃあね、莉子。来週ゆっくり話をしましょう』

 母の電話を切ると、少しだけ安心できた。

「はぁ……」

 明日また病院に行こう。

 とにかく啓介さんに謝って、流樹の件と病院の件と頼まなければ。

「お嬢様」

 ハッとして振り返るとサトさんがいた。

 話の聞かれてしまったかと、気まずくなるも、サトさんはにっこりと微笑んで、テーブルにカップを置く。

「ホットミルクですよ」

「ありがとう」

 いつかサトさんにもちゃんと話をしようと思うが、今は気持ちの整理ができない。

「ごめん、サトさん。もう少し待って」

「いいんですよ。私はずっと、奥様とお嬢様についていくだけですから」

 サトさんはこの邸を手離したら軽井沢までついてきてくれると言っていた。息子さんたちは都内にいるのに。

 私が子どもの頃からずっとそばで見守ってくれている祖母のような存在のサトさん。
 なにも聞かない優しさが身に沁みて、涙が溢れてくる。
 我慢していたのに……。


「思い切り泣いてください」

「ありが――」

 お礼すら声にならず、背中をさすられながら、ようやくちゃんと泣けた気がした。

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