天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 なぜそうなってしまったのか、今でもよくわからない。鈴本小鶴の存在だけとは言い切れない。

 私はおかしくなっていた。

 父を失う悲しみと、病院で耳にする噂。啓介さんを取り巻く女性への嫉妬。自分を見失って妊娠がわかって、体調も心もすべてが悪い方向に向かい、混乱して……。

「莉子、彼の隣にいる君を見たとき俺は、殴り倒したい衝動にかられたよ。君を誰にも渡したくない」

 啓介さん?

「ひとつひとつ絡んだ糸を解いていこう?」

 私が悪いのに、どうしてそんなに優しいの?

 怖くてあなたに聞けなくて、勝手に誤解して半年以上帰らないで、内緒で子どもまで産んだのに。

 許しちゃいけないよ、私なんてなにもできなくて――。

 溢れる涙が止まらない。

「私……、ごめんなさい、啓介さん」

 乃愛を抱いたまま私の隣に来た啓介さんは、もう片方の手で、私を抱き寄せる。

「莉子、いいんだ。ごめんな心配かけたな。不安だっただろ? よくがんばったな」

 私の背中をすりすりと撫でながら、啓介さんは私の頭に頬を寄せた。

「ごめんな莉子」

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