天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 母はギロリと私を睨んだが、なにも言わず口を閉ざす。せっかく啓介さんと分かり合えたというのに、離婚なんて絶対に嫌だ。

 ひとまずこの場を切り抜けたら、時間をかけてでも母を説得なければ。

 そして島津のお義母さまは、五分前に現れた。

「今日はごめんなさいね」

「いえいえ、こちらこそ」

 謝りあう母ふたりの隣で私も「すみません」と頭を下げる。

「莉子さんは被害者なんだもの、謝らなくていいのよ」

 島津のお母さまにそう言われ、反論しようとしたところで店員が注文を聞きにきた。

 母と義母はコーヒーを、私はジンジャーエールを頼み、ウエイトレスが消えるのを待った。早く誤解を解きたくて腰のあたりがうずうずする。

「失礼します」とウエイトレスが立ち去ったのを見届けて口火を切った。

「お母さま、すみません誤解なんです。浮気はなかったんです。私の――」

 と、そこまで言いかけて私は目を疑った。

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