復讐の果て ~エリート外科医は最愛の元妻と娘をあきらめない~


「理事長。お客様がお見えです」

「はい。ありがとう」

 にっこりと微笑むのは理事長となった母だ。

 啓介さんと離婚して二年。

 私は山上総合病院の副理事長として忙しい日々を送っている。

「理事長、私がコーヒーお出ししましょうか?」と聞くと母は溜め息まじりにうなずく。

「ええ、お願い。今日は暑いからアイスコーヒーにしてくれる?」

「はい。わかりました」

 病院では母ではなく理事長と呼んでいる。

 最初のうちは理事長、副理事長と呼び合うことに慣れず、こそばゆさを感じたけれど、今は自然と敬語が出てくる。

 啓介さんが病院を去るにあたり、次の理事長について経営コンサルタントを交えて充分に話し合って決めた。母は現場を離れて久しいとはいえ、内科医の資格を持っている。

 本音を言うと私も母も院長に理事長をお願いしたかったけれど、院長は固辞した。

『全力でお支えしますから』

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