復讐の果て ~エリート外科医は最愛の元妻と娘をあきらめない~
賑やかな蝉の声を浴びながら、車は山上総合病院の敷地に入っていく。
見慣れたはずの、でもすっかり変わってしまった白く輝いて見える病棟を見上げ、私は隣の席を振り向いた。
日除けのカーテンを直し、チャイルドシートの中にいる生まれて間もない娘、乃愛に微笑みかける。
この子との未来のために、私はここに来た。
スピードを落とした車はゆっくりとロータリーに停まり、助手席にいる家政婦のサトさんが車を降りる。私と後部座席を入れ替わるためだ。
降りる前に、愛しい我が子に声をかけた。
「乃愛、ママは行ってくるから、ちょっと待っていてね」
あなたの存在を知らない、戸籍上のあなたの父親に会ってくるのよ。
モミジのように小さな手に指をつかませて動かすと、乃愛はキャッキャと声を上げる。
今日を迎えるこの日まで何度も、繰り返し繰り返し考えた。
悩み抜いて出した結論を、いつかあなたもわかってくれるといいけれど……。