復讐の果て ~エリート外科医は最愛の元妻と娘をあきらめない~
 なにも分からず私に笑顔を見せる乃愛の頭や頬を撫で、最後に乃愛の手にキスをして、車の外へ出る。

 ドアを開けた途端に、むせかえるような熱気に包まれた。

「じゃあサトさん。乃愛をよろしくお願いします」

「はい。車の中でお待ちしておりますね」

 乃愛に手を振り、車が移動するのを見送って、ゆっくりと踵を返す。

 それにしても暑い。

 軽井沢の涼しさに慣れたせいか、べったりと肌に張り付くような八月の東京の暑さにうんざりする。この暑さでは乃愛を連れて散歩もできやしない。早く決着をつけて軽井沢へ帰ろうと心に誓う。

 久しぶりに履いたハイヒールは、戦闘服さながらに気持ちを引き締める。コツコツと細い踵が立てる足音を聞きながら進み、入り口で立ち止まる。

 自動ドアが開く間、ガラスに映る自分をジッと見つめた。

 島津莉子、二十五歳。童顔ゆえに年齢よりも幼く見えがちだ。それゆえ今日は少しでも大人っぽく見えるよう服装や見た目にも気をつけてきた。

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