天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 もちろん本当に浮気をするわけじゃない。子どもの父親の代役を立てるのだ。

「でも、子どもの父親って」

 不倫相手かつ子どもの父親になってほしいという突拍子もない私のお願いに、彼は戸惑っているのだろう。無理もないが。

「不倫相手だけならまだしも」

「流樹、ぐずぐず言わないの。莉子がかわいそうでしょ!」

 瑠々が流樹を睨む。

「でも莉子、慰謝料請求されても僕お金ないよ? いや、ないわけじゃないけど、知ってるだろう? もうすぐ目標額になるところなんだ」

「お金なら流樹には一切迷惑はかけない。慰謝料も私が払うから。だからね? お願いだよ」

 啓介さんには病院を渡す。それだけで十分なはず。足りないとしても、まさか数千万も要求されはしないと思うし。

「あのね、莉子。そもそも、どうして浮気なんて嘘をつかなくちゃいけないのさ」

「それは――。どうしても離婚をしたいから」

 悲しいかな私は彼を追求できない。
 たとえ乗っ取りが目的でも、彼のおかげで患者が路頭に迷うこともないのだ。

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