天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 一番悔しかったのは父に対する職員たちの手のひら返しだけれど、だからってそれを彼に言ったところでどうなる?

 命を削るように必死になって病院を守ってきた父を思うと、悲しくてやりきれないが、悔しさを私の涙に変える以外……。

 でもせめて。
 啓介さんが浮気をしている仕返しだけはしたい。

 そうじゃないと気が済まない。

「ちょっとした復讐をしたいの」

 瑠々が理由を説明してくれた。

「――というわけ。莉子の旦那はとんだ仮面男だったのよ」

「でもさ、立派な旦那さんだよね? 腕のいい脳外の先生で莉子の家の傾いた病院助けてくれたんでしょ?」

「それとこれとは違うのよ。別の顔があったの」

 瑠々がバッグから封筒を取り出して、流樹に差し出した。

 流樹が取り出した中身は鈴本小鶴についての調査報告書。私がお願いして瑠々が知り合いだという興信所で調べてもらったのだ。

 鈴本小鶴には、啓介さんを一週間ほど尾行してたどり着いたという。彼女は銀座のホステスだった。

 捨てられたと彼女は言っていたけれど、ふたりはまだ会っている。

 それに、浮気相手は彼女だけじゃなかった。

 私を悩ませたイタズラ電話の相手も含めたら、いったい何人の女性と浮気をしているのか。

 流樹は書類を手に取り顔を歪める。

「こんなに何人も女がいたの?」

 瑠々が「調査結果ではね」と溜め息混じりに答え、流樹の手から写真を取り上げてテーブルに並べる。

 ずらりと並んだ写真の中の一枚を「この人」と、私は指を差す。

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