天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 彼がそんなふうに感じるのも無理はない。ここは家ではなく理事長室だ。妻と夫が久しぶりに再会の言葉を交わす場所としては、ふさわしくないだろうから。

 不穏な空気を感じているなら当たりですよ。

 心で答えながら、私は腕を組んでニヤリと口もとを歪める。

 さながら希代の悪女のように。

「お別れにきました」

 いつも冷静で眉ひとつ動かさない彼も、少しは驚いたらしい。

 机の上に肘かけて手を組み、目を細めた。

「へぇ。そうなのか」

 余裕ですね。

 ならば、これはどうですか。

「私、浮気をして子どもを産んだんです。だから、離婚しましょう」



 私はやっぱり許せない。

 私だけじゃなく、父が大切に守ってきたものを踏みにじってきたあなたとは、もう一緒にいられない。

 心を弄ばれた復讐をしようと思う。

 悪女になって。

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