天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
「ふたりだけで話をしたいんですが」

 私がそう告げると、女性秘書はいかにも不満そうに表情を歪めて彼から離れた。

 通り過ぎざまに立ち止まり、秘書は私に頭を下げる。

「失礼いたします」

 一応礼儀はあるらしい。

 彼女の姿が廊下に消えたところで、私はあらためて彼を見つめた。

 相変わらず綺麗な顔をしているなとしみじみ思う。

 高い鼻梁に凛々しく結んだ口もと。お見合いをした一年前よりは痩せたような気がするが、その分精悍さが加わったように見える。

 麗しのわが夫、島津啓介の顔を最後に見たのは七カ月ほど前だ。

 短いような気もするが、離れている間に年を越し、夏を迎えた。季節が移ろい年も変わったように、私も変えようと思う。

 あなたとの関係を。



「お久しぶりです」

 私の父から奪い取った理事長の席に座っている彼は、肩をすくめて「久しぶり」と返し、皮肉な笑みを浮かべる。

「帰ってきた。という、雰囲気ではないな」

 繁々と私を見た彼は、ゆっくりとそう言った。

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