復讐の果て ~エリート外科医は最愛の元妻と娘をあきらめない~

 桜咲く……か。

 心で呟きながら中庭のソメイヨシノを見つめた。

 ここは老舗の料亭。

 はらりと散った花びらが池に落ちる。せせらぎが苔むした池を濡らし、鹿威しがカーンと高い音を立てる。四方を部屋や塀に囲まれた庭である。

 小さくとも美しい庭だが、ソメイヨシノは外の景色を知らない。花の命は短いと言うが、この小さな世界で散りゆくとは、なんと儚いことよ。

 まるで私のようね、と思う。

 私は去年大学を卒業したばかり。就職して間もないのに、お見合いの席に着くという我が身の不幸を中庭の桜に重ねてみた。

 山上莉子二十四歳。

 恋も知らないまま。私は政略結婚をする。

 

「莉子、そんなに緊張しなくても大丈夫よ」

 母はクスクス笑う。

「そこらへんでは見かけない美男子だから、莉子驚くなよ」

 父は自慢げに胸を張る。

「お父さん、この前も言ったけど、そんなに立派な人、私にはもったいないって。断られてもガッカリしないでよ」

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