天才脳外科医はママになった政略妻に2度目の愛を誓う
 それから離婚の報告も。啓介さんが本当にこの病院を去るならどうしたらいいか考えないと。頼みの綱は院長しかいないから。

「失礼します」

「ああ、お嬢様」

 院長は驚いたように目を丸くして老眼鏡を外す。

「お久しぶりですね。帰ってきたんですか」

「ごめんなさい。ご無沙汰してしまって」

「奥様の体調が悪いと聞いていたんですが、その後どうですか?」

「もう、すっかり元気です。母は田舎のほうが性に合うようで」

「そうでしたか。お見舞いにも行けずにすみません」

「いいんですよ。入院していたわけじゃないですから」

 院長はアラフィフの穏やかな人だ。

 もとは大学病院で外科医として腕を振るっていたらしい。若かりし頃に事故で片足が不自由になり自暴自棄になっていたところを父が励まし、ここで働かないかと誘ったと聞いている。そんな経緯もあってか恩を感じてくれて、父をずっと支えてくれていた。

 不自由な片足を少し引きずりながら、院長は「どうぞ」と席を薦めてくれた。

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