妖の街で出会ったのは狐の少年でした

35話 不穏

「え、踊り?」
夕食を食べ終わりシャワーを浴び浴衣に着替えて居間に行くとロクが布団を敷きながら言った。
「年に一度、講師が来て踊りをすることになっているんです。それがその学期の体育の成績なんです。」
「夏祭りにやる盆踊り的な?」
「今まではそうだったのですが今年は
西洋の踊りで、社交だんすというものを踊るらしいんです。」 
社交ダンスか。やったことないな。
「ヨナガ先生が言うには、男女のペアで踊るらしいんです。そのペア決めを授業の時に決めるんです。
では、俺は失礼します。」
そう言いロクは出ていった。
電気を消し布団に入る。4人で遊びに行ってから私たちはとくに何もなく2日が経過した。そう"私たちは"。
ジュンとナツキの距離間に変化が出てきた。最初の方より打ち解けているように感じられる。
仲良きことは美しきかな
向こうの現代国語の先生が言っていた
気がする。あの2人にぴったりの
言葉だと思う。
そう思いながら私は眠りにつく。

体育の時間にくじ引きをする。
私は猫又の子、ナツキは河童の子とペアに決まりロクとジュンはハズレを
引き余ってしまった
(男子が9、女子が7だもんな)
「くじ運ねーんかな、オレ」
「俺に言っても仕方ないでしょう?」
それからその日の体育は外で球技をやり
次の体育の時間
講師の女性2人が来て、教えてくれた。
が、講師の1人、山姫の方は短気らしく
ステップが違う。
手の場所が間違っている。
テンポを合わせて。
そこのペアずれてる。
など、怒鳴られことが多い。
もう1人の講師の雨女の方は、穏やかで
その都度 
大丈夫。
もう一回やってみよう。
と言ってくれるが、山姫を嗜めることはしてくれず正直私たちのやる気は確実に削がれていた。
失礼だがなんであんな人が講師なんだろうと思っていまう。
ロクとジュンは講師の相手役として
踊っているが、ロクは疲れているのが
目に見てわかる。
それを心配しているジュンは自分の方に集中できていないようだった。
「なんか嫌になっちゃうね」
「ほんとほんと、こっちは社交ダンスって言葉自体初めて聞いたっていうのに」
ナツキも不満らしい。
「ロクとジュンは大丈夫?」
ナツキの問いに2人は
ため息混じりに答える
「オレの相手の講師はゆっくり、一つずつポイントを教えながら
やってるれるけど」
「俺の相手の方は、動きが雑で、引っ張られるような感じなので
何度も、転びかけました。
それに至近距離だったので
すごく耳が痛いです」
「見てるこっちがひやひやしたよ」
「相手の猫又の子はずっと
ビクビクしてるし」
「まぁ、あんな指導じゃ仕方ないよね」
下の子たちも疲弊しているようだった。
愚痴をこぼしていると、猫又の子がやってきて
「ごめんなさい。上手にできなくて、
足踏んじゃってごめんなさい」
涙目で謝ってきた。
私は中腰になり
「大丈夫だよ。私もあなたも初めてで
失敗するのは当たり前なんだから。」
そう言ったが、顔色は晴れなかった。

翌日の体育の時間、
ー事件が起きたー
「皆さん、大丈夫ですか?
顔色が優れませんが」
「え、あー、大丈夫ですよ」
ヨナガ先生に聞かれたがみんな黙ったままだったので言葉を濁しながら平気と答えた。
第三者が見てわかるほど、私も含め、
みんなあの授業が嫌なんだと痛感する。
ー体育ー
今日も昨日と同じように、怒鳴られながら授業をする。
前に出す足が違う。
昨日と同じところ間違ってる。
なんで、何度言ってもできないの。
昨日と同じで誰に向けて言っているか
わからないから困る。
「もう、いやだよ。やりたく、ない」
猫又の子が呟く。
「なん、ですって。もう一度」
講師の耳に聞こえたのか、近くにあった
置物に手を伸ばす。
「言ってみなさいよ」
咄嗟に猫又を庇う。
ゴッ、と鈍い音がして落ちた音がしたが体に痛みはない。恐る恐る振り返ると






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